Veil

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こんにちは。ゴーストです。
今日は、昨日出会った蛾について書きたいと思います。虫を食べるお話が出てくるので、苦手な方はここで回れ右してくださいね。

晩酌

昨夜は随分冷え込みました。寒空の中、ローソクさんの研究室から家に帰る途中、馴染みのお店アバコットに寄りました。ちょうど夕食どきです。消耗品をいくつか買って、店主のバミさんとガラガラさんとお喋りをしていたら、バミさんがいくらかのお酒とおつまみを出してくれたので、ありがたく頂くことにしました。

バミさんとガラガラさんは旅行が好きです。訪れた先々で色んなものを買い付けてきます。先週も三日間お店が閉まっていたので、どこかに行っていたのでしょう。恐らくその時買ってきたであろう食材が、いくつかテーブルに並んでいました。

中でも目を引いたのは、小皿にこんもりと盛られた蚕です(写真はちょっとなかなかの見た目なので、載せないでおきますね)。塩茹でされただけのシンプルな味つけですが、ナッツのようなクリーミーな味でとても美味しかったです。お酒も進みます。僕はあまり飲めないけれど、二人は僕が帰るときも新しい瓶を開けていました。あの様子だと恐らく朝まで飲み続けているのではないかと思います。

僕たちはわけあって幼虫に慣れていますが、生者の世界では苦手な方が多いかもしれませんね。僕も生きていた頃は、あまり馴染みが無かったような気がします。もうあまり覚えていませんが。この話はまた別の機会に書きたいと思います。

白い膜

お腹も膨れて程よく酔いのまわったポヤポヤとした気持ちで帰路につき、玄関を通ってそのままバスルームへ向かいます。手洗いうがいを済ませたあと、バスタブの蛇口をひねってお湯をためます。お風呂のお話は以前も書いたので、良ければこちらも読んでくださると嬉しいです。

オフィーリア

リビングのソファでしばらくぼんやりしていたら、バスタブのお湯の溢れる音がしました。慌ててパジャマとバスタオルを持ってバスルームに戻り、電気を点けると、案の定お湯が溢れていました。急いで蛇口を閉めて、そうっとお湯に浸かります。僕の体積のぶんだけ、お湯はこぼれていきました。

外の寒さに晒されて冷えていたからだが、じんわりと温まっていきます。良い気持ちだなあ、でも酔っている時にお風呂に入るのは危険だったような、などと考えているうちに、うとうとしてきます。

ふと、視界の端でちらちらと何かが光ったような気がして、そちらに目を向けてみると、窓の外に一匹の蛾が飛んでいました。バスルームの明かりに寄ってきたのでしょう。止まっては飛び、また止まっては飛び、忙しそうです。もう一匹やってきました。見ているうちに、またもう一匹。さらにもう一匹、また、また……

よく見てみると、どうも窓の外側ではなく窓の内側、つまりバスルームの中に蛾はいるようでした。乳白色のお湯から生まれたような、真っ白の蛾が、どんどん増えていきます。蛾、蛾の幼虫は、なんだっけ?あの白い蛾は、あんなに自由に飛び回れたんだっけ。何も食べない、真っ白の蛾。そういえば、僕はさっきたくさん食べたのに、お腹がまた空いてきたような。

数えきれないくらいに増えた蛾が、バスルームを埋め尽くして、それでもまだ増えていきます。僕の視界からはもはや、柔らかい白以外の色が消えてしまいました。羽は軽いはずなのにやたらと重く、体に纏わりついてきます。視界どころか、鼻も口も耳もつむじも覆われて、呼吸すらままなりません。僕は苦しくなって、全身を覆う白い膜を掻き分け、空気の層を必死に探し始めました。バタバタともがいてついにそれを見つけた瞬間、あれだけたくさんいた蛾たちは一切消えていなくなり、僕の顎からしたたり落ちる水滴が、湯舟に落ちる音だけが響いていました。