こんにちは。ゴーストです。
思いもよらないところから、思いもよらないものが出てくることがありませんか。僕は今しがたそんな体験をしたので、忘れないうちにここに書いておきたいと思います。
やる気のある退屈な休日
僕は今日、暇を持て余していました。ローソクさんの研究室に行く日でもなく、ほかの予定もこれといってなかったのです。しかし、何故だか妙にやる気満々で元気いっぱいでした。
僕は普段、どちらかというとのんびり過ごしている方です。ぼんやりと考え事をしたり景色を眺めたり、犬のモップ君と部屋で遊んだり、こうやって文章を書いたりしています。外に出ると、元気で無茶苦茶な人たちに会うことが多いので、一人の時は静かに休むようにしています。なので、今日みたいにやたらと活動的な気分になると、かえってどうしてよいのかわかりません。
部屋を見回してみても、特に気になるものは見つけられませんでした。外に出てみようかとも思いましたが、今日は珍しく雲が晴れて太陽が顔を出していたので、やめてしまいました。当てもなく家の中を歩き回って、浴室、玄関、リビング、台所、窓辺、リビング、玄関、トイレ、いつも物音がする天井の真下、モップ君の毛だらけカーペット、ヒビの入ったタイル、熱湯と冷水が反対に出る蛇口、何か映っていそうな鏡、誰もいないのに音のなるチャイム、鍵をかけていないのに開かないクローゼット……のところまで来て、これをなんとか開けられないだろうかと思い立ちました。
開かずのクローゼット
このクローゼットが開かなくなってどれくらい経ったのか、たしか一昨年の夏頃にはもう開かなくなっていたような気がします。突然開かなくなったので、前日に洗濯したものとその日に着ていたもの以外の服がなくなってしまいました。仕方がないので新しくいくつか買って、今はハンガーラックにかけています。
一度ローソクさんが来た時に相談してみたら、悪霊退散だとかなんとか言って燃やされそうになったので、あの人に相談するのはやめました。一番の悪霊はあの人です。でも、本当に悪霊なんかが出てきてしまったらどうしようと僕はちょっと不安になりました。自慢じゃないけれど、勝てる気がしません。悪霊の親玉みたいなローソクさんを呼ぼうかとも一瞬考えましたが、家ごと燃やされそうなのでやっぱりやめました。
三十分ほどクローゼットの前でモジモジして、意を決して取っ手を掴みました。怖いので目を瞑って、グッと手に力を入れて、思い切り引っ張りました。開いてほしいけど、開いて欲しくない!
……
ものすごくあっさりと開きました。あまりにもあっさりすぎて、取っ手を握る手にありったけの力をこめていた僕は、勢い余って後ろに転がりました。しばらくそのまま唖然として、僕と同じようにポカンと口を開いたクローゼットを見ていたらほんのちょっとだけ腹が立ちました。どうして今まで開いてくれなかったんですか、うんともすんとも言わなかったじゃないですか、燃やされそうになっていたのに、などと文句を言ってみても、クローゼットからは何も返ってきません。いえ、返ってきたら怖いので、返ってこなくていいです。
開いた筈のクローゼット
過ぎてしまったことを言っていても仕方がないので、気を取り直して中を検めてみます。懐かしい服たちが以前に見た形のまま仕舞われています。下のほうにはスペースがあって、そこには中に何を入れたのか忘れてしまった箱がいくつか押し込んでありました。
箱を引っ張り出して開けてみると、僕の持っている中では一番良い靴と、編みかけのミトン、それから古びた鞄がありました。鞄の中には少しよれたニワトリのキーホルダーと、古い写真が一枚入っていました。クローゼットの前は暗くてよく見えなかったので、窓の近くへ移動します。いつの間にか近くにいたモップ君も、窓辺にやってきました。
これはかなり昔に撮った僕の家族写真です。この写真は、ゴーストを写すためのカメラが発明されて初めて撮られたものです。僕は双子の兄で、髪の分け目が反対の弟がいます。もう一人弟と、歳の離れた妹もいます。それから父と母です。この時はまだモップ君はいないので写っていません。
僕と母と妹が持っている大きな鏡は不思議な鏡で、写真の中でも鏡として機能します。つまり、写真に写っている鏡の中に、写真を見ている人の顔が映るということです。とはいえ僕たちゴーストはどんな鏡にも映らないので、確認のしようがないのですが。
何故この鏡を持っているかというと、ゴーストを写せるカメラで撮った鏡になら、ゴーストが映ることができるのではないかというローソクさんの考えがあったからです。結果的には映りませんでした。ちょっと残念でした。
生きている人は問題なく映るようなので、このブログを読んでくださっている生者の方に試して頂きたいと思っています。ちゃんと映っているでしょうか?もし今が朝なら、この鏡で身だしなみを整えてくださっても
今、僕の後ろで何かの扉が閉まる音と、鍵のかかる音がしました。