こんにちは。ゴーストです。
今日は、海について書きたいと思います。
海の記憶
僕たちゴーストは基本的に、南東の海沿いの住宅街に住んでいます。他の場所にもちらほら住民はいますが、数はとても少ないです。ローソクさんのように潮風が苦手だったり、ウオズ君のように人間嫌いだったり、なんらかの理由があってそうしている人たちがほとんどです。
じつは、僕はゴーストになる前も海の近くに住んでいました。歩いて十五分ほどで浜辺が見えてきます。ゴーストになる前の記憶はあまりないのですが、子供の頃に一人で行った海の記憶はよく思い出すのです。僕の意思とは関係なく、押し寄せてくるさざ波に似ているかもしれません。
夜明け前の海は、暗くて重くて、綺麗というよりは恐ろしいと感じていました。今もそうです。太陽よりも早起きの漁師たちが、小さな港から船に乗って海へと出ていきます。港から少し離れた場所にある、海の中へと突き出した足場の上に立って、僕はその船の明かりを眺めていました。砂浜に落ちているガラスの破片に陽が差すと、キラキラと光ってとても綺麗です。昼間の宝石がガラスの破片なら、朝方の宝石は船の明かりでしょう。夜は言わずもがな、星と月です。
向こうの国
海の向こうにはうっすらと別の大地が佇んでいて、そこは別の国のように思えました。そこにはいつも二人、会ったことのない友達がいました。一人は雪のように真っ白な毛むくじゃらで、頭の上に木の枝のような角が二本生えています。もう一人は湖のような澄んだ青色で、長い首と長いしっぽ、それから丸いお腹を揺らしてゆっくりと歩いています。
彼ら(彼女らかもしれません)はとても穏やかに話します。僕には聞き取れない言葉だけれども、穏やかさに命を与えたらこの二人になるんだろうと思うほど、静かに話す二人が僕はとても好きでした。とうとう二人に会うことのないままこっちに来てしまったけれど、波打ち際に行くといつも、もしかしたら会えるのではないかと思ってしまいます。